「あなたにとってayuの2016年の最高のライブは?」と、
もしも、今後、聞かれることがあったとしたら、私は迷わず、
「TAツアー名古屋2日目」だと、答えると思う。
それくらい、名古屋2日目は、すべてのTAに観てもらいたい最高のライブだった。
1日目同様に、声以外の体調不良を悟らせまいと、文字通り、全力で挑み出し尽くした。
実際、あの場にいたほとんどの人が3日目の休演を予想できなかっただろう。
声は枯れ、何度もステージ床にへたりこんでは立ち上がる――。
“完璧”にはほど遠いライブだったけど、
“浜崎あゆみ”というアーティストの、
真髄を思い知るステージだったことは否定のしようがない。
本当に長い長い、2日間だった。書き留めたメモは10ページを超えていた。
でも、レポとして、何を書くべきかは別の話のような気もするんです。
2日目の公演後に、ayuがツイートした言葉が、名古屋でのすべてを物語っていて、
そこに私が補足をしたところで、それをayuは望むだろうか?
物事というものは、どの立場から見るか、どこに視点を置くかで、
幾通りもの見方が出来る――。
今回のこともそうだ。
東京に戻り、休演を知らせるニュースやSNSを見るにつけ、それを強く感じた。
思い返せば、昨年もそうだった。
福岡の2日目と札幌公演が振替と休演になってしまった時も、
ネットには、多くの激励と、叱咤と、嘲笑と――。
それらを片っ端から読み漁り、その場を観ていたものとして、
憤りを感じたり、悲しくなったり、そう書かれるのも致し方ない。と思った。
昨年の福岡1日目――。
意識が朦朧とする中、開演ギリギリの時間になって
ayuはスタッフに抱えられるようにしてZeppの楽屋へ入ってきた。
腕には点滴の跡が重なり、目も開けていられない。
「こんな状況でもステージに立たなきゃいけない」
これが浜崎あゆみの仕事なんだ――。と、分かってはいても、
ここまでして立たなきゃいけないんだろうか?と思う自分と、
TAのみんなが雨の中、ずっと待っていた姿も見てきたし、
今日のために、遠くから来た子もいるだろうと思うと、
どうにか頑張って欲しい。そういう浜崎あゆみでいて欲しい。
と思っている私も、確かにいた。
それ以前に、プロなのだから、ステージに穴をあけるのはもってのほか。
もちろん、それも正論だと思う。
ayu以外にも、仕事で関わってきたアーティストさんたちが
体調不良ながらもステージに立ち、結果として不甲斐ないステージだったと
自分自身に苛立ち、悔しさや後悔で涙する姿も過去には見てきたし、
その姿が事実であれ、体調不良を不甲斐ないステージへの言い訳にはしたくないと、
文字にして公表することを拒まれたことは、1度ならずあった。
実のところ、昨年のayuも文字にすることを拒んだひとりだった。
今年も、もちろん、その想いは変わっていないと思うが、
なんとなく上手くすり抜けながら勝った気になる事ほど虚しいことはなくて、
木っ端微塵になっても良いから真正面からぶつかって思いっきり負けたほうが
ずっと良いことを教えてくれたのは名古屋のTAの皆でした。
予想通り、粉々に砕け散りましたが、哀しくありません。幸せです。
最後まで歌わせてくれて、本当にありがとうございました!
と、自らメッセージを出したこともあるし、
その言葉の真意を私なりの解釈として書くのなら――と。
どんな憶測の記事よりも、私なりの事実がある分だけちょっとマシなくらいで、
もしかしたら、“言い訳”の域を超えないものかもしれませんが、
TAの皆さんとはやはり共有したく、書くことを決めました。
まず、ayuが名古屋入りする前に、ツアードクターから全員マスク着用の指示が
出たことで、かつてない、かなりナーバスな状況であることを察しました。
そして、始まった当日リハーサル。
ayuより少し遅れて客席側に回り込んだ私の目に飛び込んできたのは、
いつもはないスツールに腰かけ、頭を抱え込み、顔を下に向けたままのayuの姿だった。
今回のツアーで初めて聴く「SEASONS」。高音が苦しそうだとか、
そんなこと以前に衝撃だったのは、歌い進めていくほどに、今にも泣き出しそうな、
こんな悲しい「SEASONS」を聴いたのは初めてだったこと――。
続けて、歌ったもう1曲のバラードでは、こんなことじゃダメだと、
彼女自身が自分を叱責しているかのように、力む歌声が痛々しいほどだった。
開演まであと1時間弱。いったい彼女に何て言葉をかけたらいいのだろう。
どういうテンションで楽屋に入ればいいのだろう?
去年の福岡では、
途中で倒れたとしてもTAの皆は分かってくれる。
いつ倒れてもおかしくない状態だったからこそ、
出来るところまでやり切ってきて!と、送り出した。
でも、あの後、「夢を与える場所なのに心配させるなんて最低だ」と、彼女は言った。
どれだけ近い場所で取材しても、彼女たちがどんな想いでそこに立っているのかを
本当の意味で知ることは出来ないし、ましてや凡人の感傷で慰めたりなんて
飛んだお門違いだなと、私はあの時、思い知った。
そんなことを、ふと思い出して、とにかく無事に名古屋3daysを乗り切って欲しい。
外野が出来ることなんて、祈ることくらいしかないんだよね―――。
リハによって、ayuの状況が本人含め、誰の目にも明らかな状態となり、
3日間のライブをやり切るための、苦渋の選択として、
セットリストの変更が決まったようだった。
私がそれを知ったのは、本番まであと15分程度という時だった。
楽屋に入ると、リハで見た青白い顔はメイクによっていつもの浜崎あゆみになっていた。
でも、熱からくる汗だけは止まらず、RYUJIさんが、しきりに生え際をおさえている――。
「曲を入れ替えたり、流れを考慮してカットしたりしたんだけど、この曲数じゃ少ないよね」
擦れ声の彼女から受け取ったセットリストを見た。
確かに――。私が名古屋のTAだったら?と思うと、返す言葉がない。
その沈黙は、彼女が想定していたものだったのだろう。
スタッフに「バラードを一曲増やすと伝えて」と告げた。
「でも、今からじゃ準備が・・・」と言いかけたスタッフの言葉を遮り、
「アカペラで何か歌うから!」と、言い切った。
馴れ合いは必要ない。浜崎あゆみとしてステージに立つのは彼女自身。
曲数を減らすことだって、もちろん本意な訳がない。
セットリストだってすでに世の中に出回っている。
ファンの声はいつだってayuにちゃんと届いてる。
そして、TAが一番、厳しいファンだということも。
それはayuから私自身が何度も聞いてきた。
そして、幕が開けた名古屋初日――。
最初のMCまでの数曲。いつになく低いあの声を聞くまで、
ayuの不調に気づいた人が何人いただろうか。
私ですら、そのことを忘れてしまうような勢いだった。
これでいい――。
「涙はたやすく 誰かに見せるものじゃない」
セットリストの中でも、一番ハードな曲で、そう歌うayuがまさに今の彼女とリンクする。
MCでのダンサーのZINさんとのやりとりもいつも通り。
リハの最中に、ステージに仰向けに横たわり動けないでいたayuを彼も見ていたのに、
まるで何事もなかったかのように、明るくアシストする。
どれほどの気力なんだろう――。
セットリストを削ったことへの言い訳も一切しなかった。
それが必要ないくらいのステージを作り上げて、笑顔でみんなに帰ってもらいたい。
ただ、その一心で1曲、1曲を歌いあげていく。
リハで聴いたバラードも、別人のようだった。
浜崎あゆみとして、あるべき姿で、ステージに立つ。
そんな彼女の決意が透けて見えるようだった。そして、最後までそれを貫いた。
アカペラで歌うと宣言していた+αに、ayuは「Key」を選んだ。
どうして「Key」だったのか。
それも、今なら、きっとみんなも分かってる。
早替えのタイミングで袖に掃けるたびに、倒れ込んでいたという舞台裏。
終演後は、楽屋に戻る体力もなくそのままホテルへ直行した。
今日が乗り切れたんだから、きっと明日も大丈夫!
余力はまだある――。そんな希望を持ってしまったのは、私だけではなかったと思う。
翌日、楽屋入りする前に、ayuの様子を見にホテルへ向かった。
テーブルの上には、たくさんの処方薬が並んでいた。
マネージャーがドクターと電話している声が聞こえた。
気管支拡張剤、ステロイド…といった単語が飛び交っていた。
ayuはといえば、やっと起き上がれた――。そんな感じなんだろうに、
会話が敬語。
これは、長年付き合ってきてわかることなんですが、
素を隠そうとしているときはいつも敬語になるんです。
どんな理由があるにせよ、昨日のステージは曲数を減らした時点で、
悔いの残るものだったのだろう。
来てくれたTAのみんなに対しても、自分を許せないでいる――。
それが、直接的じゃないまでも、会話の端々から見えてくる。
そして、何かを決めたんだな。
と、思う敬語が続いた。
「000だと思うんですよ。0000じゃないですか?」
これを私の頭の中で変換すると、
もう二度と中途半端なことはしたくない――。
と、言っているようだなと。
この人、何をしでかすつもりなんだろう。
でも、浜崎あゆみという人は、何かを決断したら、誰もそれを覆せない。
それは、言うことを聞かないのではなく、そこに至る理由が論破できないくらい正論だから。
その答えを知ったのは、私が一足先に会場入りしてからだった。
セットリストの曲数が元に戻っていた。それどころが、
昨日の不甲斐なさを、名古屋のTAすべてに謝罪するかのように、
今ツアー初となるダブルアンコールまでプラスされていた。
3日間の平均値で合格点を狙うのではなく、
砕け散ることを恐れずに、今日しかない一日を全身全霊でTAと分かち合う。
それが、浜崎あゆみの生き方であり、TAツアーのあるべき姿だと腹を括ったのだろう。
もちろん、3日目を捨てたのではなく、賭けに出たというのが正しい気がする。
結果として、ドクターストップが入り、休演となってしまったけれど、
ayuが何を選ぶことが正解だったのかは、やはり視点によって変わってくる。
名古屋3日目を心待ちにしていたTAの皆さんにとっては、本当に残念なことで、
休演自体がプロとして失格だとayuを批判する人がいてもおかしくない。
去年は、余力の計算も出来ないほど、限界だったのに対し、
今年は、ダメになることを想定してペース配分をしたなら、出来たかもしれないし、
ペース配分をしたところで、やはり3日間は持たなかったかもしれない。
ただ、ayuからしたら、どちらも、予測の範囲を出ないことならば、
ダメと決めつけて手を抜くことのほうが、TAに対する裏切りになる。
ただでさえ、ベストとは言えない歌を聴かせることだって間違いなんだ。
その想いが、
「最後まで歌わせてくれてありがとうございました」
という言葉に表れていたように思うんです。
冒頭にも書きましたが、名古屋の2日目。
私はあのステージを観てしまった側として、そこに至るまでを見てきた側として、
正直な、気持ちを臆せずに書け!
と言われたら、どうしようもなく浜崎あゆみらしい決断だったと思います。
それに、去年の反省があったから、名古屋の1日目があった。
そして、名古屋1日目があったから、2日目のステージがあった。
あれほどのステージは、何もなくして生まれない気がするんです。
そして、あの場に居合わせたTAは、今後、あれ以上を期待するはずだし、
ayuは図らずしも、自分で自分のハードルを上げてしまったね、と。
今後の浜崎あゆみが、名古屋公演によって得たもの、失ったもの、
それが、どれほどのものかは計り知れないけど、
すべてを受け止めていく覚悟は、とうの昔からあると思うんです。
だからなのかな?
相変わらず、どうしようもなく不器用な浜崎あゆみですが、
どうぞ、よろしくお願いします!
と、親戚みたいな気持ちになってしまうのは(笑)。
もしかして、2日目を観たTAの皆さんも同じ気持ちだったりしませんか?
ホント、長すぎだろ!ってくらい書いてしまいましたが、
松山公演からツアー復帰のお知らせもでました!
果たせなかった名古屋3日目の分まで、ポテンシャルは高まってると思うので、
ぜひぜひ、お楽しみに!!!!!!
ツリコ